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学校長Essay ~HPVワクチンと援助希求力~

(以下は、2月14日に行われたオンラインによる全校集会の校長講話です)

 今日はバレンタインデーです。日本では、女性が男性にチョコレートを贈って愛の告白をする日として始まったバレンタインデーですが、同僚や友人などにチョコレートを贈るといったように、最近ではずいぶんと多様化しています。それでも日本のチョコレートの年間消費量の2割程度が今日一日で消費されるのだそうですから、お店にとっては重要な一日ということになります。

キリスト教圏では、一般に恋人や家族など大切な人に贈り物をすることが習わしとなっているのですが、中国は「男性が恋人や奥さんにバラの花束を贈る日」、台湾は「大切の人と過ごす記念日」として、デートをしたり一緒にディナーを取ったりすることが多いそうです。また、韓国は日本とほぼ同じで、「女性が男性にチョコレートを渡すとともに、告白をする日」であり、3月14日のホワイトデーもあるようです。私自身のことで今も覚えているのは、チョコレートに手紙が添えられてあって、そこには「私の初めてのチョコ、受け取って!」と書かれていたことです(笑)。ということで、今日は手紙の話から入ります。

配付された読売新聞オンラインの記事を読んでください。
https://www.yomiuri.co.jp/national/20211216-OYT1T50266/

手紙にまつわるとても切ない、でも心温まる話ですが、この記事の中から2か所について話をしたいと思います。まずは「子宮頸がん」についてです。この子宮頸がんという病気は、先進国では検診とワクチン接種により減少傾向にあるのですが、日本においては、年間約1万人が罹患している病気で、患者数・死亡者数とも少しずつ増えおり、特に若い世代での増加が問題になっています。日本だけどうして?と思うかもしれませんが、それは予防ワクチンの接種率の低さにあります。
11月末に皆さんから回答してもらったアンケートでは、女子を対象に子宮頸がん予防ワクチン(HPVワクチン)の接種状況も聞いたわけですが、「接種済み」と「接種中」を合わせ15%程度でした。このワクチンについては、日本では2013年に副反応が疑われる症状を経験した患者がメディアによってセンセーショナルに報道されたため、副反応が起きやすいワクチンというイメージがつき、打たない人が増え、国も積極的な接種を推奨しにくくなっていました。しかし近年、医師会などの地道な啓蒙活動が実を結び、日本でも少しずつ接種する女性が増えています。今のところワクチン代が無償になるのは、小学6年生から高校1年生までの間に3回接種を済ませた場合なのですが、日本で子宮頸がんが増えているということもあり、国は対象年齢を過ぎた女性も無料接種を可能にして救済することを決めました。
この救済措置が始まるのが今年になる見通しで、住んでいる市町村から案内が届きますので、未接種の女子の皆さんは、子宮頸がんに罹るリスクとワクチン接種の副反応とをよく比較し判断してほしいと思います。

2つ目は「未成年後見人・弁護士」の部分で、あまりなじみのない言葉かと思います。親の死亡などより親権者が居なくなった未成年者について、親の代わりに法定代理人となる人のことです。このケースの場合、5歳でお母さんを失くしているわけですから、子どもが財産管理などはできないわけで、生前お母さんが弁護士さんにお願いしていたのだろうと思います。そして、20歳になるまで、毎年の誕生日に手紙を託したのでしょう。
何か困りごとがあったら、相談するということはものすごく大事なことです。しかし、相談すると迷惑になりはしないかと考え、自分で何とかしようとしてしまいがちです。でも、一人で抱えて上手くいくことはそれほど多くはありません。
困ったことがあれば相談する、できればその道のプロに相談することです。もめ事とか法的なことだったら弁護士さん、病気のことならお医者さん、進路のことなら学校の先生、心のざわめきはカウンセラー、何か怖いことなら警察、子育てや会議については市役所などです。
誰かの力を借りる力を「援助希求力」といいます。問題や悩みを抱えて自分では解決しきれないと感じたときに、誰かに相談したり、 助けを求めたりしようとする力のことです。中高生の自殺とか、女優さんの自殺とかもありましたが、誰かに助けを求めて危機を脱することは本当に大事なことなのです
話を先ほどの手紙に戻すと、余命を知ったお母さんが誰かに相談したことで、未成年後見人そして弁護士への相談という形になったのだろうと思われます。私はこの記事を読んで、特に「順子さんからの手紙は、年を重ねるごとに漢字が増え、文章も長くなっていた」というくだりに心打たれました。わが子の成長を思い浮かべながら、少しずつ漢字と文章の量を増やしたお母さん、何と素敵な人なんだろうと。しかも、病気を恨まず、それは産まれて来る事が出来たからなんだという物事を肯定的にとらえる考え方、本当に頭が下がります。娘の梨菜さんは児童福祉司を目指すということですが、今度は相談を受ける立場になります。苦労を知っている分だけ、きっと信頼の厚い相談員になるんだろうなと思います。
以上、今日はHPVワクチンと援助希求力の話でした。